記事: ランニングはすごくしあわせな趣味

ランニングはすごくしあわせな趣味
Why I Run:Stories from Runners
vol.5 蟻塚真衣さん 後編
Text:Shun Sato

連戦からの自己ベスト
2時間42分25秒――。
2026年3月ソウルマラソンで出した蟻塚真衣さんの自己ベストだ。実は、このレースは連戦の3戦目だった。2週間前に東京マラソン(2時間47分24秒)、1週間前にソウルで10㎞のレース(優勝:36分20秒)を走った。一度帰国し、またソウルに移動してのマラソンだった。この2週間、どう過ごしていたのだろうか。
「東京マラソンから10㎞のレースまでの1週間は、4日間完全オフにしました。ポイント練習もせず、1日だけジョグと流しをして終わり。10㎞を終えてからのソウルマラソンまでは、まず3日間完全オフ。1日だけビルドアップ走をしました。それも70%の強度でやって、ソウルに移動しました」
この流れで自己ベストを出すところが「外さない女」たる所以だろう。真衣さんの凄さは、多くのレースで入賞し、毎年、PBを更新しているところにある。結果を出し続けることができるのはなぜなのか。
「走り始めの頃は、わりとタイムがどんどん出るんですけど、やっぱりある程度のところにいくと結果を出すのが難しくなってくると思うんです。私も本当は『これから1分、2分縮めたいです』とか、『2時間40分切りたい』とか言いたいんです。でも、そう言うとやらないといけないと思って無理してしまいますし、オーバーペースでいきがちなんです。それじゃ結果は出ないですよね。私は、レースではいつも『1秒の自己ベスト』を狙おうと考えるようにしています」
1秒でも更新できたらそれは自己ベストになる。意識をタイムではなく、1秒に置くことで余計なプレッシャーをかけずに済む。自分を追い込まず、心に余裕を持つことが好走につながるのだろう。

諦めないこと
もう一つ、大事なことがあるという。
「私は、うまく走れているように見えますが、ほとんどが失敗レースなんです(苦笑)。でも、怪我での長期離脱はないですし、練習が継続できています。ずっと練習を積んでいけばいつかタイムは出ると思っているので、ひとつのレースに一喜一憂しない。ダメでも落ち込まない。そういう気持ちの持ち方が大事だと思います」
最初から「これはいける」というレースが毎回できるわけではない。昨年、PB更新をした「ふくい桜マラソン」も40㎞まで出る感じではなかったが、残り1.5㎞からブレイクした。知人に引っ張ってもらい、キロ3分20秒で爆走すると30秒PBを更新することができた。
「最後まで諦めないこと。タイムを出すにはすごく大事ですね」

ウルトラへの挑戦
主戦場はフルマラソンだが、最近はウルトラマラソンにも出場するようになった。昨年の富士五湖80㎞レースで優勝。今年は富士五湖120㎞で準優勝。サブ10(9時間59分25秒)を達成するなど、速さだけではなく、強さも証明している。
「ウルトラは、シーズンのイベントみたいな感じです。富士五湖は景色がきれいで、ウルトラはこのレースだけ出ているんですけど、なぜか相性がいいんです。足はボロボロになりますけど、大きなトラブルがなく、いつも愉しめています。これからもこのウルトラだけは走ろうと思っています」

結果を出すために
フルマラソンに加え、ウルトラのレース、その合間はイベントやハーフ、10㎞、5㎞のレースを入れている。ほぼ毎週のように走っているわけだが、その体力はいったいどこからやってくるのだろうか。
「私は、めちゃくちゃ白いご飯を食べます(笑)。速く走るには体重は軽い方がいいと食事を軽くする人もいますが、私はむしろ食べて体重が増えればそれでいいって感じです。食事で補えない亜鉛や鉄はサプリで摂っています。やっぱり食べないと走れないですし、フルを走るとかなりのエネルギーを消費するので、そこで栄養を摂らないと疲労が取れず、怪我とかの要因になります。女性は特に食事をしっかり摂ってほしいですね」
たくさん食べて、よく寝る。いつの時代も健康を維持するのは、シンプルなことの継続なのだ。

ペーサーのモチベーション
練習会ではペーサーをしているが、ぺーサーをやるようになったのは、どのようなキッカケからだったのだろうか。
「最初、一緒に走り始めた仲間のチームでペーサーをしたのがキッカケです。自分の練習では、いつも引っ張ってもらって申し訳ないので、私にもできるならと始めました」
ペーサーとしてのやりがいは、どんなにところにあるのだろうか。
「ペーサーでタイム通りに引っ張るのはタイムを体で覚えるなど自分の練習にもなりますが、一番大きいのは終わった後に『ありがとうございました。いい練習ができました』と、笑顔で言われることですね。すごくうれしいですし、それが私のモチベーションになっています」
ペーサーはただ前を走ればいいというわけではない。設定タイムを守るのはもちろんだが、うしろを走る人の息遣いなどを感じて声掛けしたりするなど、人への気遣いが求められる仕事でもある。
「私がぺーサーをする際、気を付けているのが安全面です。練習中に怪我するとすごく悲しい気持ちになるので、特に夜の練習の場合は暗いので段差とか気を付けながら安全走行を意識しています。もうひとつは、その人の練習の取り組み方を崩さないようにしています。全員が追い込んで『イケ!イケ!』みたい感じではないでしょうし、私は追い込むことが必ずしも正解だと思っていません。その人の狙いに合わせてやってあげるのが大事かなと思います。あとはいかに気持ちよく走ってもらえるか、を考えていつも走っています」
RETOでペーサーする際、多い時で10人ぐらいの集団になるが、走っていてキツさを感じた時は自らの経験を活かして声を掛けをしている。「真衣さんのペーサーは走りやすい」と評価が高いのは、単に走りのリズムが良いだけではなく、そういうケアが行き届いているからでもある。

RETOに感じる絆の強さ
月2回、RETOの練習会のペーサーを務め、レースやイベントで顔を合わす機会が多いが、真衣さんにはRETOというチームがどう見えているのだろうか。
「RETOは、あれだけ人数がいるのに、みんなめちゃ仲が良いなと思いますね(笑)。私は、地方のレースに行く機会も多いんですけど、走っていると「あれ、RETOの旗だ」とびっくりすることがけっこうあったんです。聞くと『応援するためだけに来た』というんですけど、家族でもないのに仲間の応援のためだけに来るのってすごいなと思いました。私もランニングを始めた時、RETOがあったら入りたかったなぁと思いました」

仕事があってのランニング
真衣さんは、ラン二ングのインフルエンサーではない。
インスタグラムには毎週のように走る姿を投稿しているので、そうであってもおかしくはないが、今も一般企業で働いている。脱サラしてインフルエンサーとしてやっていけそうだが、そこには興味がないという。
「私は、ランニングとまったく異なる仕事をしているんですけど、それが逆にいいなって思っているんです。ランニング関係の仕事だと、そのことばかり考えて結果を出さないといけないと考えてしまったり、モチベーションの低下とかもあると思うんです。でも、仕事があるので、ランニングのオンとオフを切り替えられる。それが今も楽しく走ることを続けられている要因だと思います」
なぜ、走るのですか。
「走ることが好きだからです。それ以上でもそれ以下でもなくて、単純に自分が好きなことをやりたくて、それが走ることなんです。人生で走ることに出会う前はこれといった趣味もなかったんですが、もう10年も続いているので、すごく幸せな趣味だと思います(笑)」


















