コンテンツへスキップ

カート

カートが空です

記事: 「レース前、勝つために半年間でできることはすべてやりました」-前編

「レース前、勝つために半年間でできることはすべてやりました」-前編
interview

「レース前、勝つために半年間でできることはすべてやりました」-前編

RRC member interview

text:Shun Sato

信越五岳トレイルランニングレース2025
杉田侑菜さん 110km女子 5位入賞

信越出場の決断

 杉田侑菜さんが、信越五岳の110キロを走ろうと決めたのは、1年前の同大会でのボランティアがきっかけだった。運営サイドの人に「来年、信越を走るためにボランティアをしているんでしょ」と言われた。

「ボランティアをしていると翌年の信越の優先出場権がもらえるんですけど、それを最初知らなくて『そんなことないですよ、ボランティアをするために来ました!』って言っていたんです。でも、運営がすごく親切で、大会の雰囲気も良く、終わる頃には出たいと思う憧れの大会になっていました。ボランティア終了後、『来年はスタートラインで待っていますね』と言われたので、『よし、来年は信越に出よう』と決めたんです」

ロードからトレイルへ

 信越五岳への出場の意欲は高まったが、その頃はロードレースで結果を出すことを目標に置いていた。2024年10月の水戸漫遊マラソンは、目標だった大阪国際女子マラソンの参加記録である3時間06分にあと一歩届かず、3時間07分15秒だった。11月のつくばマラソンでは、3時間04分19の自己ベストをマークし、目標を突破。今年2月の大阪国際女子マラソンでは、3時間00分43秒で自己ベストを更新、さらに3月の静岡マラソンでは2時間59分14秒で念願のサブ3を達成、ロードシーズンを完璧とも言える内容で締めくくった。

毎週、山に入る

 4月から信越五岳のための準備に取り掛かった。

目標は、10位入賞に定めた。練習を積み、現状確認のために6月に奥信濃100の50キロのレースに出場、39歳以下では2位、女子総合では9位だった。結果だけを見ると悪くはないが、自分自身は「走れなかった」という印象だった。

「この時は、本当に思うような走りが出来てなくて‥‥。なんでだろうと考えた時、自分には圧倒的に山の経験が足りないことに気づきました。その日を境に毎週、山に行くことに決めたんです」

 山には基本的には土日に入り、週末に行けない時は平日に有休を取って行った。高尾山がメインで、一度入ると最低5、6時間、山に籠もった。

「山に入って長い距離を走る練習はもちろんですけど、ロードの練習で足が疲れている時にはアクティブレストみたいな感じで山に入ったり、とにかく体を山に慣らすことを優先していました」

ライバルたちを徹底研究

 山は、いつも同じ表情を見せるわけではない。時間ごとに表情を変えていくが、レースはそのなかで行われる。そのため杉田さんは、山で熱中症みたいな症状が出た場合、実際のレースを想定して、どうしたら回復していくのかを試したり、体調が悪くなった時、何を食べることができるか、など、山でしか得られないことを経験値として積み重ねていった。

「今、思うとそれが自分の強みになっていたと思います。絶対に入賞すると自分のなかで決めていたので、ここ3,4年の入賞者やタイムを見て、この人はこのぐらいの強さなので、自分にはこのくらいの練習が必要になるだろうなとか、考えましたし、SNSで見つけて、どのくらい山に入り、どんな練習をしているか。どのくらい標高を獲得しているのかをチェックするなど、勝つために徹底的に調べました」

 相手を知ることは勝負の鉄則であり、欠かせないことだが、山の猛者を相手に戦い、入賞するためには、自分の弱点を克服する必要があった。

ウィークの克服

 「私は、山の登りが苦手だったんです。ロードとはまったく違うので、そこはけっこう集中して練習しました。登りの練習を続けていくと気が付いたことがあって、体調が良いと思ってもその日によって上れる日と上れない日があるんです。ロードだと体をコントロールする上でそういう差が出て来ないんですけど、山だとそれが出てくるので、それがなぜなのか、訳が分からなかったです」

 その原因を突き止めるべく、天候や体調を毎回確認し、山に入る前日までの行動を潰していくと、シンプルなことに行き当たった。

「結局、よく食べて、よく寝るということだったんです。8時間、しっかりと睡眠を取り、食事はロードの練習ではあえて胃のなかを空にして走るんですが、山では炭水化物、タンパク質、鉄分をバランスよく摂っていないと走り切れない。シンプルなことですけど、それを理解できたのは、すごく大きかったですね」

ペーサーの条件

 並行して、ペーサーについても思案した。RETOのメンバーに「誰がペーサーはいいかな」と聞くと「トレイルのロングにおけるペーサーは山に詳しい経験者がいいでしょう」と、数名の候補者を挙げてくれた。だが、杉田さんのなかでは、もうひとつピンと来なかった。

「山は過酷だと聞いていたので、『ペーサーやるよ!』と言ってくれる人よりも相当な覚悟を持って、逆に、信越のペーサーできるかなって少し悩むぐらいの人がいいかなと。それに私は腹をくくって本気で練習しているので、一緒に腹をくくって練習してくれる人がいいなって思ったんです」

 その時、名前が上がったのが、“きっちー”こと吉川尚志さんだった。

理想のペーサー

 RETOメンバーの小南貴彦さんが「きっちーの性格なら、ある程度のわがままを聞いてくれるんちゃうかな」と推してくれた。

「あっ確かにって思いました(笑)。走っていて、私がきつい口調になってしまってもきっちーは怒らない姿が想像できたし、レース中に『これいる?』って優しく聞いてくれた時、『いらないに決まってんじゃん』とか言って、面倒くさい感じになっても理解してくれると直感的に思ったんです(笑)。それにきっちーはフルマラソンを2時間35分を切るスピードで走れるので、走力もめちゃくちゃ高いじゃないですか。それで、きっちーにお願いしたら『僕にはできないかもしれない、ちゃんと考えさせてほしい』って、悩んで考えてくれましたし、山のレース経験の有無以上に一緒に乗り越えてくれそうという点で私の理想と噛み合ったんです」

 過酷のなかに置かれると人間は素の部分が出てくる。そのためか、トレイルでは選手とペーサーがよくケンカすると言われている。極限状態になった際にどんな自分が出てくるのか、なかなか予想がつかないし、実際に出た時には抑制が取り払われて感情にむき出しになるので、そうなればどうしたってぶつかる。ただ、ペーサーに余裕があれば、衝突は最低限に済むことになる。勝利には貪欲だが、冷静で穏やかな性格の吉川さんは、杉田さんの棘も槍もすべて受け入れてくれるペーサーだった。

完璧な準備

 杉田さんは、吉川さんがダメなら単独で走ろうと決めていた。熟考した吉川さんから返事が来たのは、ペーサー登録の締め切りの3日前だった。

「きっちーがやってくれることになって2回、一緒に山に入りました。けっこう追い込んだ練習をしたのですが、そこで確認をしたのは、私が限界になった時の行動と状態です。山のこういう傾斜は走れない、心拍が160以上になるとこんな呼吸になる、限界を超えたらこういう態度を取るとか、勝つためにいろんなことをすり合わせしました。最終的にきっちーは私の息遣いで心拍数をわかるようになっていたので、いい練習になったと思っています」

 補給食の確認もした。結果的に、米が食べたくなることが分かり、特にいなり寿司が良く、漬物に味噌汁、そしてエネルギー系のゼリーとラムネが合うのが分かった。

「これだけは揃えておこうというのをきっち―と確認をして、サポート隊のみなさんにも伝えました。レース前、練習を含めて半年間でできることはすべてやりました。不安がないと言えば、うそになりますが、試合前日は早く走りたい、早く走らせてって思ったんです(笑)。調子がいい時って、そう思えることが多いので、きっと信越も大丈夫なのかなと思っていました」

 雨のなか、入賞を狙うので厳しいレースになる。でも、きっといい大会になるだろう。その予感を信じて、杉田さんは信越五岳110キロのスタートラインに立った。

Read more

RETO TRAIL CLUBでは第3クールのメンバーを募集します
news

RETO TRAIL CLUBでは第3クールのメンバーを募集します

RETO TRAIL CLUBは、トレイルランニングで目標達成を目指すランナーを募集します。 トレイルランニングを含めた月3回の練習会に加え、不定期開催のオンラインセッションや、チームとしてのレース参戦などを通じて、継続的に成長できる環境を提供します。 チームのファウンダー兼メインコーチを務めるのは、RETO RUNNING CLUBでもコーチを務め、トレイルランニング日本代表としても活躍...

もっと見る
「信越は、わたしひとりでは、戦えなかった」-後編
interview

「信越は、わたしひとりでは、戦えなかった」-後編

RRC member interview text:Shun Sato 信越五岳トレイルランニングレース2025杉田侑菜さん 110km女子 5位入賞 レースの趨勢を決めるバンフ  信越五岳のレースがスタートした。 斑尾高原レストランハイジから始まり、袴岳から妙高高原を経て、黒姫山を周り、笹ヶ峰高原、戸隠山、璃瑠山から飯綱林道を経て、ハイランドボール飯綱まで110キロを走破する。制限時間は...

もっと見る