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記事: 結婚、新コーチ、新たな人生のフェーズに入った今、目指すのは世界最高峰の舞台

結婚、新コーチ、新たな人生のフェーズに入った今、目指すのは世界最高峰の舞台

結婚、新コーチ、新たな人生のフェーズに入った今、目指すのは世界最高峰の舞台

陸上/やり投 武本紗栄選手 後編

Text:Shun Sato


助走の歩数を変更

重さ600グラム、長さ2.2‐2.3mのやりを、いかに遠くに投げるか。
それが、“やり投”という競技だが、そのなかで大きなウエートを占めるのが投てきするまでの30m(国際大会は33.5m以上)の助走になる。今シーズン、武本紗栄選手は自分に合う助走の歩数を見出し、6歩走って7歩のクロスステップに変更した。
「これは、好みなのですが、だいたいは8歩走って7歩クロスなんです。でも、私は8歩走るとかなりスピードが出て走れてしまうので、助走の歩数を6歩に減らしてスピードを活かしつつ、7歩のクロスステップに切り替えるようにしました。自分のスタートポジションからスムーズに助走に入り、そのまま投げることを意識しています」
助走のランの部分は、普通に走るのと変わらないと思いがちだが、最近、武本選手は気が付いたことがあったという。
「スプリントだと体が前傾姿勢になるのですが、やり投は最後に体を後ろに残して投げるので、スピードを出して前傾で行くと突っ込んでしまうんです。クロスに入るまでの走りをいかにスムーズに速く走れるかというのが投げに繋がり、それが助走になるので、普通の走り方の意識をちょっと変えて取り組んでいます」


RETOソックスの心地よさ

その走りに影響を与えているのがソックスだ。武本選手は、スパイクのなかでも滑らないソックスを探していた。
「私の場合、スパイクのなかで足が滑ることが多く、投げる時の衝撃で左足の親指が割れたりしていました。『いい靴下ないかなぁ』と探していたのですが、ハードルの清山(ちさと)さんと話をしている時に、『この靴下滑らないからいいよ』と教えてもらったのがRETOの靴下でした。それから『めっちゃええ』と気に入って使っています。RETOはフィット感がありますし、滑らないんです。助走して最後、止まって投げる時、ズルッというズレがないので、投げやすくなりました」
その心地よさから普段でもレギンスで出歩く際などに履いているという。
「試合はもちろんですが、練習やジムに行く時を始め、日常的にも履いています。シンプルなタイプが好きで、白も黒も履いていますし、寒い時は丈が長いタイプを履いているので、もうずっと履いている感じです(笑)」



家族の支えを力に

競技に関わるちょっとした出会いは、競技力向上に繋がるが、2年前の2024年、武本選手は結婚というライフイベントを経験した。ライフステージの変化は、競技生活にどんな影響を与えたのだろうか。
「もともと家族が身近で応援してくれていましたが、結婚してからはパートナーにも日頃から支えてもらっています。陸上への理解もあるので一人じゃないと感じます。結婚前は、練習も試合も生活もひとりで、それにはけっこう慣れていましたし、ひとりでいることに強いタイプだと思っていました。でも、今は一緒にいるパートナーがいて心強いです。試合前とか、どうしてもピリピリするのですが、そういう時に気持ちが和むというか、気持ちをラクにさせてくれます。試合も毎回、見に来てくれますし、いてくれると安心感があります」
武本選手の言葉からは、パートナーと良好な関係が築けているのが伺える。お互いを尊重し、競技や今後について考えて生活し、競技に良いエネルギーが循環できているからこそ幸せを感じられるのだろう。

オフを使い分ける

シーズン中、結果が出ると気持ちよく過ごせるものだ。だが、なかなか思うようにいかない時はオフを利用し、気持ちの切り替えが必要になる。
「休みの日は、何も考えずにぼーっとしています(苦笑)。カフェに行ったり、家でコーヒーを入れたりしてのんびりしています。外に出歩くというよりもインドアで済ませることが多いですね。人混みが苦手なので、家にいる方が落ち着くんです。でも、長いオフ期間や大きな試合の後は、旅行にもいきます。先日も軽井沢に行ってきました」



試合中、ピット内での過ごし方

オフの時間を経て、いざ大会に臨むわけだが、フィールド競技のやり投は、競技時間がかなり長い。トラックの100mだと10秒前後で終わってしまうが、やり投は予選から始まる。20人以上の選手がひとり3回、投げて、記録を出していく。60秒以内に投げるルールがあるが、それでも決勝進出する8人を決めるまでにある程度の時間を要し、さらに決勝でもひとり3回、投げるので、それなりの時間を必要とする。テレビでは、ピットで選手がそれぞれ思い思いに時間を過ごす姿が映し出されているが、待機時間に選手同士で会話などしているのだろうか。
「みんな自分の世界に入って集中しているので、試合前の練習時も試合中も基本的に会話はしないです。試合が終われば話しますが、試合中は自分の番までにピットでウォームアップをしたり、コーチと話したり各々過ごしています。」
ちなみにルーティンや願掛けをするのだろうか。
「ありません。そういうの信じてないので(笑)」
ピット内で待っている間、寝転がったり、食を取るなど自由に過ごす選手が見えるが、武本選手はどう過ごしているのだろうか。
「私は、自分の番がくるまでグミを食べることが多いです。あとは、バナナとか栄養ゼリーとか、エネルギーチャージしています。試合によっては20人以上いて、待ち時間が長いので、糖分を摂るようにしています」

2位の内幕

ピット内は、楽しそうな空気が溢れているわけではない。調子がいい選手は明るいが、追い込まれている選手もおり、不安そうな選手もいる。いろんな感情がぶつかりあって独特の雰囲気を醸し出している。
「今回の日本選手権は、私も色々な感情が出て、ピット内で落ち着かず、気持ちがブレブレでした。予選で3本投げてベスト8ギリギリで、まだ後ろに17人いたので、平常心を保とうと思いつつも、もう終わったなと思っていました。最終的に決勝に進めて喜び、上に下に感情が動いてもう大変でした」
それでもセカンドベスト(61m76)を出して2位につけた。

世界最高峰の舞台で結果を

やり投は、北口榛花選手が世界のトップを走っている。昨年の世界陸上では、北口選手とともに上田百寧選手と武本選手の3人が出場した。北口選手は2歳上、上田選手と武本選手は26歳で同年齢だが、意識しているのだろうか。
「2025年の世界陸上では北口選手と上田選手と一緒でしたが、北口選手は、世界女王なので、上田選手とふたりで頑張って喰らいついて行こうと話していました。今も追いつき、追い越せという気持ちでいますし、勝ちたいと思っていますが、大会では戦う相手、全員に勝ちたいという気持ちが強いです」
その思いを実現した先に、まだ踏み込んだことがない世界最大のスポーツの祭典への道が開けてくる。
「世界陸上は、2回出場していますが、五輪はまだ出たことがありせん。自分のなかで世界陸上は大きな大会ですが、世間的に見たらやはり注目されるのは五輪だと思います。だから、五輪には出ないといけないと思っています。ただ、出るだけではダメですね。世界陸上に出場して年数も重ねてきたので、結果を残さなければいけないフェーズに入っていると思っています。だからこそ、頑張るしかないです」

 

前編「盗塁を次々と阻止して、ソフトボール遠投68m — 強肩に敷かれたやり投への路」

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