
いつも挑戦する心を忘れない
RRC member interview
text:Shun Sato
モチベが上がらない
2025‐2026シーズン、RETO RUNNING CLUBで総合MVPを受賞した片山絵さんは、マラソンに向けてエンジンが掛かりにくい状態だったという。
「2024年のつくばを走ってからほとんど走っていなくて、昨年の道マラも3時間半ぐらいで全然モチベーションが上がらなかったですね。その頃は、仕事をちょっと頑張らないといけないという危機感があって、心に余裕がなくなり、ランに気持ちが向かなくなっていたんです」
絵さんは、2024年10月、飲食・イベント・観光など多用途で活用可能なファストパス型チケットサービス『ハヤパス』の提供と運営する会社を作った。浸透するまでは人もお金も掛けられないなか、うまく行かないことの方が多く、仕事のことがランに影響していた。それは誰しもが理解できることだろう。仕事や生活が安定していなければ、ランを始め趣味に没頭ができない。特に強度が要求されるマラソンは、気持ちの余裕がなければ前向きに取り組むことが難しい。

JAM設立へ
絵さんは、ハヤパスを運営しつつ、昨年10月に駒沢でTacosGulid駒沢を経営していた小永井心さんから経営譲渡の話をもらい、岡田拓海さんと協議を始めた。
12月には契約を結び、「JAM Runtrip BASE KOMAZAWA」が動き出すことになった。
「5、6年前からランニングなのか、飲食なのか、なんか人が集まれる居心地のいい場所を作りたいという構想があったんです。小永井さんが、TacosGulid駒沢をやる時、ちょっと話を聞いて、いいなって思ってはいたんですよ。それで今回、話が来て、岡田君と話をしてやろうという判断になったんです」

仲間とのチャレンジ
だが、なぜ駒沢公園で、TacosGulidの後を継いだのか。
「実は2012年から14年までちょうどJAMの真裏に住んでいて、駒沢の雰囲気が好きだったのと、岡田(拓海)君は高校時代のアメフト部の仲間で、みんなと会える場所、当時は部室だったんですけど、ふたりともそういう空間が好きだったし、そういう場所が欲しいとずっと思っていたんです。この話をもらった時、やっとそういう場所が作れる。これはやらない選択肢はないなと思ったんです」
岡田さんはランニング界のMCとして著名だが、ビジネスを一緒にやろうと思った理由は何だったのだろうか。
「岡田君は、10年以上この業界で仕事をしていて、ランニング界隈の人脈が広く、認知度もあるので、ランナーにすごく影響力がある存在なんです。あと、自分は、岡田君が主催するランラジのコミュニティでフルマラソンにチャレンジするという企画を2年間一緒に手伝ってきました。その中で彼のコミュニティマネジメントや人への対応とか近くで見ていて、岡田君とならと思ったので、一緒にこの取り組みができてよかったです」

JAMが目指す先
今年の5月1日にJAM Runtrip BASE KOMAZAWAがオープンした。
絵さんは、オープンに当たり、ランステという言葉をあえて使用しなかった。シャワーやロッカーがある場所という意味でJAMを作っているわけではないからだ。
「当初からランステを作るという構想ではなかったんです。僕と岡田君の理想は、ランニングをきっかけに、そこに人が集まってコミュニケーションが生まれて、そこから新しい取り組みとかアイディアとか何かが自然発生的に生まれる場所にすること。いずれ、ジャパニーズランニングカルチャーの拠点みたいな場所にしていければと思っています」

刺激的な毎日
ポットキャストやビデオポットキャストなどを制作して、メディアとしての機能も果たす場所にしていくビジョンもある(現在は既に公開済み)。もちろんランニングの講習会や練習会やメーカーやブランドのポップアップなどのイベント、これからも利用者さんの声を聞きながら、JAMをベースにJAMだからやれることを増やしていくという。
「ランニングを楽しむ、いろんな人に出会える、走ることをきっかけに、それ以外の新しいことが生まれていくのがすごく刺激的です」

レースを練習に
ベンチャーでの自分の仕事、そしてJAM Runtrip BASE KOMAZAWAの設立など、多忙を極める中、なかなか練習する時間を確保できずにいたが、絵さんは8月の道マラ以降、月1,2本のペースでレースを入れていった。10月19日「Okukuji X Trail 55km」のトレイルに出場し、脚に疲労がある状態で26日に横浜マラソンを走った。11月1日に横浜ノースドッグランでハーフを走り16日に神戸マラソン、12月頭に湘南国際マラソンと年明けの勝田全国マラソン、年末にはBeyondで初めてフルマラソンのペーサーも務めた。
「最初はなかなかモチベーションが上がらなかったのですが、レースを走っているうちに、どんどん調子が上がっていき、RETOの練習会もモチベーション高く、すごく集中することができました。大地さんにも『絵さん、調子いいですね!』と言っていただいて、そこから更に気持ちが乗っていった感じでした」

トレッドミルの効果
仕事が忙しいなか、それでもある程度の距離も踏まないと調子の良さを加速させていくことは難しい。絵さんが重宝したのがトレッドミルだった。
「冬は寒いし、風が強い、雨が降るとか、走るのが億劫になることが多いんですが、トレッドミルだとそういうことにモチベーションが左右されないんです。しかもジムで走るので、その後のストレッチや交代浴などリカバリーもしやすい。メニューはChatGPTに自分の状態と目標タイムを伝えて、ペースと傾斜角度の設定してもらい、60分から90分ぐらい走る感じです。スマホで好きな恋愛バラエティを見ながら多い時は週に3,4回、トレッドミルで走っていました」
もともと高い走力があったが、ジムでトレッドミルを使用し、距離と心肺機能を落とさないように維持していった。

会心のレース
そうして、今年2月8日の延岡西日本マラソンに出場、2024年つくばで出した2時間48分01秒の自己ベストを1分40秒短縮する2時間46分21秒の自己ベストで今シーズンの有終の美を飾った。
「これは、会心のレースでした。ワンチャン、45分台も行けるかなと思っていたんですけどね(笑)。でも、1秒でもいいので自己ベストを出すことに集中していました。雪がちらつくぐらいの気温で風もありましたが、比較的気象条件も良かったし、前に近いペースで引っ張ってくれるランナーさんがいたのも大きかったです。後半も足が残っていて、それは月に1,2本レースを入れて走った効果かなと思います。今回、練習でトレッドミルを使うとか、これまでやらなかったことを試しにやってみようという実験的なシーズンだったんですけど、実を結んでくれてホッとしました(笑)」

次のターゲット
仕事、プライベート、ランニングにおいて新しいことに挑戦したシーズンだったが、マラソンも結果が出た。その結果を踏まえて絵さんは、マラソンについてもう少し先を見据えているという。
「RETOには、多くの女子が大阪国際の標準タイムを切っているのに男子で福岡国際のタイムを切っているのはキッチー(吉川尚志さん)だけじゃないですか。2時間35分切りというと、ここからあと10分も縮めるの?みたいになりますけど、コツコツ頑張って少しでもキッチーに近づいていきたいですね。キッチーがひとりで寂しそうなんで(笑)」

人生において大事なこと
仕事とマラソンの両立は、言うほど簡単ではない。
新たな仕事を始めれば、成功するか否かの不安も抱え、軌道に乗せるまでは走るどころではないという気持ちも出てくる。そんな時に無理して走る必要はなく、絵さんも無理して走ることを自分に課さなかった。レースに出ることで周囲のランナーからの熱を吸収し、静かにモチベーションを上げていった。人それぞれマラソンへの取り組み方は千差万別だが、絵さんの実験的な取り組みは今後のランニング人生において大きな糧になったはずだ。
「ヒリヒリするぐらいの目標にチャレンジすることは、人生において必要なこと。その過程で得たことは自分を大きく成長させてくれる。独立して、まだ落ち着くまではいっていないですけど、来シーズンももう1発頑張ってマラソンをやろうかなと思っています」












